すずのうた

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特別な街 パリ

特別な街、私にとって、それは、パリだった。

 

パリが特別だなんて、私の中には全くなかった小学生のころ、母に連れられて、宝塚歌劇を観に行った。大きな舞台で、パリの歌を合唱している団員を見ながら、地図でどこにあるかも知らないその街が特別な場所なんだ、そんなキラキラしている場所がこの世にあるのかと思った。

小学6年生の修学旅行。親から初めてもらったお小遣いを握りしめ、家族に買うお土産とは別に、自分に何か特別なものを買ってあげたいと、土産物売り場をウロウロしていた。舞台で歌われていたパリの歌とまだ見ぬヨーロッパの香りを探していた。ここは日本なのに、私は、ずいぶん前に見た舞台の感動をまだ引きずっていた。土産売場の片隅に、十字架がそっと置かれていた。修学旅行のその地と全く関係のない十字架。パリの雰囲気を探していた私にはぴったりのものだった。自分のお金で初めて、自分の欲しいものを買った、憧れの地に少しでも近づけるのではと思って握りしめたのは十字架だった。パリとは程遠い場所に住んでいる自分が、十字架を握りしめて、憧れの地に行きたいと夜な夜な夢にみているなんて、家族に言えば一笑されて、「似会わないわよ」と笑われるのが怖くて。私は十字架にその思いを封じ込めて、買ったことを誰にも話さず、十字架を大事に机に隠して、私の憧れを封印したのだった。

 

大学生になり、たまたま学部からドイツに行くことになった。修道院の見学もあり、教会にもおもむくのだった。ステンドグラスから入る光に目を奪われて、中にゆっくりすすみ、頭をあげると、教会の中央にかけられているのは、十字架だった。私は、何かを取り戻すかのように、ゆっくり思いだしていた。ああ、そういえば、小さな頃に私は憧れていた。「パリ」という音の響きと、そして文化の香り。そこに行けば、きっと何かがあると思っていた。なのに、忘れていた。忘れていたのではなく、忘れようとして、十字架に封印してしまったことを思いだした。こんなところで、こんな美しい場所で、自分の本当の気持ちに触れるとは思わなかった。ここはドイツで、パリは国境を超えればすぐ行ける場所にある。日本からドイツに来たことに比べれば、パリに行くことはたやすかった。ドイツ語は多少分かっても、フランス語はちんぷんかんぷんの私に教授は、「今からパリに行くって大丈夫なのか」と、ずいぶん心配してくれた。でも、ここで行かねば、いつ行けるんだろう。家に帰れば、きっと私の家族は私に「パリなんて似会わない」って言うだろう、そして、私はきっと行けなくなってしまう。教授に、「大丈夫ですよ!アン、ドゥー、トロワ!数字は言えるようにしましたから!」教授は吹きだした。教授が吹きだしたのも、無理はない。宿はとっていないし、向こうにいってから、宿をとるっていいはる私に、「宿をとれるかちょっとフランス語で話してみろ」といってみたら、返ってきた返答は1.2.3だったから。こりゃ、ダメだと教授は笑った。笑って、「まあ、行くなら行ってこい、気を付けて!」笑ってくれたから、私は、とにかくパリに行くことにしたのだった。自分のふてぶてしさとどこから出てるか分からない度胸を、教授の笑い声が肯定してくれている気がして、パリへと向かった。

 

国境を越え、パリに行く。聞きなれたドイツ語がフランス語にかわり、なんて言ってるんだと少し不安になりながらも、憧れのパリの地を踏むことを楽しみにしていた。

 

パリの駅に着いたときの記憶はない。分からない言葉、とにかく泊まるところを見つけねばという不安で、私の記憶は抜けている。なんとか宿をとって、ほっとして下を向いた石畳からが私のパリの記憶だ。パリは石畳なんだ、街と石畳があっていて、私は嬉しくて、クルクル回りたい気分。ぐっと気持ちを押さえて、石畳をぴょんぴょんと歩いていく。シャンゼリゼ通りを高揚した気分で歩く私は世界で一番幸せものなのではと思えた。住みたかった街に、今、ここにいること。きっと自分には出来ないと思っていたことを、自分の力でやって、ここに立っている!ああ、パリ!文化があり、音楽があり、食があり、そして、自分も出来るんだってことを教えてくれた街。いつか住みたい街で、住みたかった街。憧れの街の真ん中で、私は家にある、お土産屋で売っていたあの十字架を思いだしていた。もう憧れではなくて、パリは来た街になった。大事な家族に私の思い出話をしてみよう。私は、家族に「パリなんて似会わないよ、行けないよ」って言われるのが一番怖かったけれど、今はもうきてしまった。似会わないなんて言わせない、だって、シャンゼリゼ通りで今一番幸せなのは誰でもない私なんだから。パリにきて、ちょっと自信がでてきて、自分が想像する家族の言葉が優しい言葉に変わり始めていた。

 

そして、今、住みたい街は、家族が住んでいる街。

優しい暖かい言葉をくれる家族が住んでいる街、

私も昔よりは家族に優しい言葉を言えるようになったのかな。

いくつかの住みたい街を通りすぎて、私は人を愛するようになったのだ。

 

 

書籍化記念! SUUMOタウン特別お題キャンペーン #住みたい街、住みたかった街

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by リクルート住まいカンパニー